胃薬と肺炎

胃薬と肺炎

「最近、仕事が忙しくてストレスが多い。胃が痛いなどということはないが、念のために胃薬を飲んでおこう」「海外旅行に出かけるが、現地で胃が痛くなると困るので、胃薬を飲んでおこう」などと気軽に胃薬を飲んでいる人がいます。このとき、胃酸を抑制する薬を飲んでいるのか、それとも、胃の粘膜を守る薬を飲んでいるのかを区別するようにしましょう。前者には胃酸分泌抑制剤(胃酸の分泌を抑制する薬)や制酸剤(胃液を中和する薬)などがあり、後者には粘膜保護剤(胃の粘膜を保護する薬)などがあります。確かに、胃潰瘍や十二指腸潰瘍で困っている人にはこれらの薬は大変有効です。しかし、そのような状況にない人が予防的に胃酸分泌抑制剤や制酸剤を内服することは果たして良いことなのでしょうか?

胃には胃酸という強力な酸があります。口からは食物と一緒に、多くの微生物が胃に入ってきますが、胃酸によって微生物は死んでしまうので問題は発生しません。ところが、胃酸分泌抑制剤や制酸剤を内服すると胃酸の酸性度が弱くなってしまい、微生物は死滅しないのです。例えば、コレラ菌は胃酸によって死滅するので、大量の菌を飲み込まなければコレラにはならないのですが、胃酸の酸性度が不十分な人では少数のコレラ菌でも発症するのです。すなわち、胃酸は微生物が外部から消化管に侵入するのを防いでくれる防波堤といえます。

私たちは、毎日、少量の胃液を肺に吸い込んでいます。眠っているときも無意識のうちに、胃液が食道に逆流してきて、肺に流れ込んでいます。胃液は酸性度が強いので、微生物が殆どおらず、肺に少量入り込んでも肺炎の原因とはなりません。もちろん、嘔吐などで大量の胃液が肺に入り込むと胃酸によって肺に障害が発生しますが、日常生活ではそのようなことは起こりません。
胃酸分泌抑制剤や制酸剤を服用していると胃酸の酸性度が低下し、胃液のなかで微生物が増殖してきます。胃液は体温によって温められているので、酸性度が不足すると、細菌にとって良好な培地となってしまいます。そのため、胃酸分泌抑制剤や制酸剤を服用している人では胃液の逆流によって微生物が肺に入り込み肺炎になりやすくなっているのです。

胃酸分泌抑制剤や制酸剤は治療として内服することが大切です。何も症状がないのに、「旅行に行くから」とか「ストレスがかかって胃を荒しそうだから」ということで予防的に内服するのは危険です。スクラルファートのような胃粘膜保護薬であれば胃酸を弱めないので、そのような心配は必要ありません。胃薬を内服するときには胃酸分泌抑制剤や制酸剤であるのか、胃粘膜保護薬であるのかについて知っていていただきたいと思います。